活動報告

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【3/22てらこや報告】背景を知ることの大切さ

 

3月22日の勉強会は自治体国際化協会地域国際化推進アドバイザーの村松紀子さんをお招きしました。村松さんはJICA海外協力隊員としてパラグアイで活動し、帰国後はスペイン語相談員&社会福祉士として、30年にわたり主に南米系の日本で暮らす海外ルーツの人びとの支援に携わっておられます。この日の勉強会は「日本における日系南米人の30年 ~生活相談窓口からの定点観測とこれから~」と題して、日系南米人の人びとが日本で直面する課題とその背景をお話しいただきました。

 

 

 

日本人の南米移住の歴史は古く、1899年に第1号の集団移住の船がペルーに向けて出発してから今年で125年たちました。政策的な移住は1993年まで行われましたが、現在は移住者本人だけでなく、2世・3世が日系人の大半を占めるようになりました。日本政府は国内の単純労働者不足を補うために日系人に目を付け、彼らを「定住者」の資格で制限なく働けるようにしたのが1990年の入管法改正です。現在日本で暮らす日系南米人の多くは、この改正入管法で来日した日系人とその家族です。

 

 

 

来日した理由はさまざまですが、多くは自国で働き口がない、あるいは賃金の安さから家族を養えない等いわゆる機会欠如の理由から、他国より就労規定が緩やかな日本での就労を選んだ人たちです。来日してからも、二度の大震災、在留外国人に関する法改正、リーマンショックなど、社会の変化に振り回されつつ、それでも家族を持ち(or家族を呼び寄せ)、コミュニティを作り、日本社会に根を下ろして生きてきました。ライフステージが上がるにつれて子育てや経済的な課題が増え、また、どこで子育てするか(=日本か自国か)の悩みも増え、帰国する人もいれば、帰国せずに日本で暮らすことを選択する人も出てきました。そしていま、働き盛りの年齢で来日した日系人の多くは60歳前後となり、病気・障害・介護の課題に直面しています。独居・貧困・帰国困難など、日本人よりも抱えている問題が大きいことは容易に想像できます。村松さんは30年という長きにわたり彼らに寄り添い、ライフステージごとに表れる課題に共に取り組んできました。そして、彼らが直面する課題が増えるごとに、村松さん自身も武器(≒知識、資格)を増やして、自らをアップデートさせてきました。

 

 

 

海外ルーツの人びとを目の前にして、私たちは生活習慣の違いに戸惑ったり、時には日本の生活習慣になじむよう強いることもあったかと思います。でも、村松さんのお話をお聞きして、いま目の前にいる人がどのような理由で来日し、自国や日本でどんな生活をして今に至っているのかを、社会的背景と共に理解することの必要性を感じました。

 

 

 

 

例えば、生活を安定させるために給料の一部を貯蓄するよう助言しても貯金しない人がいます。日本人の感覚だと銀行に貯金するのは当たり前なので、貯金しない人イコール金銭感覚がルーズな人だと思いがちです。その一方、ブラジルやペルーなど自国で銀行が突然破綻したり、インフレで通貨の価値が下落するなどの経験をしていると、彼らが銀行に預けるのは逆に不安だという気持ちも理解できます。私たちは自分の物差しでなく、彼らの物差しで現象をとらえる必要があることが、村松さんのお話を伺って改めて実感できました。

 

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今回の参加者には村松さんのご紹介で現役の通訳者や相談員の方も参加されました。参加者の感想の一部をご紹介します。

 

村松さんからは「コミュニティ通訳とは」という視点でのお話をよく伺っており、どちらかというと支援者立場のお話がメインで伺っていたのが、今回は、日系人のアイデンティティについてのお話をたっぷり伺うことができ、日系人のバックボーンをいかに日本人支援者に知らせていく必要があるかということを改めて学んだと思います。多くの日本人には「郷に入れば郷に従え」「長いものにまかれろ」的な視点が根付いており、そして余所者に対する警戒心も強いため、なかなか地域に暮らす外国人を見ようとしない。けれど、見渡せば日々の暮らしの中で外国人を目にしない日はないということをより多くの日本人が自覚しなければならないと改めて感じました。そして、今現在日本で暮らす外国人(今回は特にペルーの日系人についての歴史を学びました)が日本に来た背景を支援する人は多少なりとも知っておく必要があると改めて感じています。ここ数年はベトナム人(この1〜2年ほどは減ってきていますが)、ネパール人(留学生が増えています)、インドネシア人(特定技能で増えてきていると思います)、スリランカ人が増えてきています(といっても日本人の多くはおそらくどの国の人たちかの見分けはなかなかつかない)。日本人と外国人という区別をするのではなく、同じ地域に住む同じ人間であり、けれどその背景はひとりひとり違うということをお互いに理解し合える環境が大切だと思います。「以心伝心」という日本人の感覚を捨てて、ちゃんと話し合うシステムを作っていく必要がある、そして、学校では集団行動の大切さを教えるだけではなく、憲法にある「基本的人権の尊重」をきっちりと教えていかなければならないと感じました。

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参加者の皆様の感想からもまた、多くの学びを得ることができました。村松さん、参加者の皆さん、お疲れさまでした&素晴らしい学びの時間をありがとうございました!

 

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