活動報告

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【9/24勉強会報告:壁を作っているのは誰?】

9月24日は「外国人住民の新型コロナ感染から見えてくる壁」と題して、BiPH会員の橋本智恵さんにお話しいただきました。

 

橋本さんのバックグラウンドは看護師ですが、臨床経験の後、外国語学部でも学び、海外の病院勤務、通訳、NGO活動の経験もするなどユニークな経歴をお持ちです。現在は、愛知県立大学国際文化研究科で修士課程の学生をしながら、契約職員として保健所などでコロナ関連業務に従事しています。

 

そのコロナ関連業務で見えてきた問題点をシェアしていただくことを目的に、今回のお話をお願いしました。外国人住民が保健医療にアクセスする際の障壁は「言葉の壁」「制度の壁」「心の壁」とよく言われます。今回はその中でも、橋本さんが日々直面しておられる「言葉の壁」のリアリティについて、現場からの声を聞かせていただきました。

 

橋本さんの現在の立場は「契約職員」、つまり1つの保健所などに所属する職員ではないので、複数の現場を経験しています。同時に、同じように全国から派遣されている看護師の方々からそれぞれの地元の状況を聞く機会もあるそうです。そんな橋本さんの立場ならではの、非常に貴重な報告でした。

まず、橋本さんが、保健所で陽性者の聞き取り(疫学調査)に携わっていた時の経験をご紹介いただきました。第1波から5波まで状況にいろいろ特徴があったそうで、改善されたところもあったようですが、少なくとも第3波の頃、日本語が十分でない人が濃厚接触者となった場合、派遣先の多くの保健所では、本人に家族、友人、職場の人といった通訳を探してもらっていたようです。普通に日本語で聞き取りをしても、1時間くらいとかかるのですが、通訳を通すとその倍の時間がかかります。

 

 

それだけではなく、子どもが通訳の場合の時間的心理的負担(途中で泣き出してしまったこともあるとのこと)、友人や職場の人にプライベートなことを話さなくていけないこと、逆に「知っているから」と通訳者が勝手に答えてしまうこと、などなどの問題に直面したそうです。さらに、外国人の名前を電話で聞き取るのは難しく、接触者リストを作成するのも一苦労。

 

また、検査を受ける時点での言葉の壁による診断の遅れがあったり、軽症者のホテル療養を「日本語ができる」ことを条件にしていた自治体では、行き場がない状況もあったりしたとのこと。

 

言葉の壁への対策として、三者間電話通訳、自動翻訳(ポケトークやボイストラなど)、やさしい日本語などがすでにありますが、派遣された職場ではこれらはほとんど知られていなかったようです。(自動翻訳機は電話での聞き取りには使いにくかったそうですが。)そのような問題が報道された新聞記事やテレビニュースも勉強会の途中で紹介されました。2020年12月のNEWS 23の動画を皆で少し視聴したのですが、インタビューされている保健所職員は、実は橋本さんです。

 

 

新聞記事もご紹介

 

 

このニュースでコメンテーターが、「多言語化するか、外国人の方々に日本語を習得してもらう支援をするかのどちらかが必要だが、これまでどちらも不十分だった」とまとめていたのは、まさにその通りでしょう。

 

一方で、「自宅療養ゼロ」を掲げて「日本語が不自由な外国人は自宅療養不可」とし、療養ホテルでの多言語化に尽力していた自治体もあって、なぜあるところでできることが、他のところでできないのか?と対応の差を感じたとのこと。さらに、現場で出会った全国から派遣されてきた医療従事者への聞き取りからも、「ことばの壁」は各所、各自が手探りで困惑しており、その場しのぎとなり問題共有されにくいのではないか、と痛感したそうです。

 

 

橋本さんのメインメッセージは、多言語ツールは整備されてきているが、保健医療提供側の認識が低ければ活用されない、と言うことだったかと思います。最後に、保健医療従事者が外国人住民について理解を深める事が必要ではないか、誰が、何を、どのように外国人住民の「ことばの壁」を低くしていくのか。と問題提起していただきました。

 

今回の参加者は、BiPH勉強会へのご参加がはじめての方が半数を超えました。このトピックにご関心のある方が多かったのだと思います。さまざまな形で外国人住民に関わっておられる方々による、活発な質疑応答、ディスカッションが行われました。自宅療養者への多言語対応方法や、在留資格のない人へのワクチン接種の現状と課題など、質疑応答を通して情報共有されたものも多かったです。住んでいる場所や関わる人によって健康が左右されないよう、言葉の壁を乗り越えるための方法を現場で実践する人を一人でも増やすことが必要ですね。橋本さん、参加してくださったみなさん、ありがとうございました!

 

勉強会中に橋本さんや参加者の方々から紹介された、役に立つと思われるサイトを以下に挙げておきます。

 

【電話通訳サービス(通達と案内リーフレット):厚生労働省】
https://www.mhlw.go.jp/content/20210421-tuuyaku_s.pdf
【多言語音声翻訳アプリ<ボイストラ>:国立研究開発法人 情報通信研究機構】
https://voicetra.nict.go.jp/
【医療×「やさしい日本語」リーフレット:順天堂大学大学 武田裕子教授】
https://easy-japanese.info/wp-content/uploads/2021/06/yasashiiiryo.pdf
【各種情報提供(外国人対応):全国保健所長会】
http://www.phcd.jp/02/t_gaikoku/
【自宅・宿泊療養のしおり(多言語翻訳版):神奈川県】
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/covid19/facilities/top.html
【命を守る言葉プロジェクト:特定非営利活動法人 国際活動市民中心(CINGA)
https://www.cinga.or.jp/1026/
【在留資格がない人等のコロナワクチン接種について:社会福祉法人 日本国際社会事業団】

在留資格がない人等のコロナワクチン接種について


【日本国内に住民登録がない等によりクーポン券の入手が困難な方へ:名古屋市】
https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000144596.html

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