活動報告

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第10回連続勉強会「Health economicsって何?」報告

2016年8月4日は、昨年のお話も大好評だったケープタウン大学公衆衛生・家庭医学研究科・医療経済学教室シニアレクチャラーの本田文子さんに「Health economicsって何?」と題してお願いしました。

 

まず、経済学(Economics)とは?というところから。経済学の3つのポイントは、「選択(choosing)」、「少ない資源(scarce resources)」、「いくつかの使い道(alternative uses)」、すなわち、経済学とは「いくつかの使い道があり得る少ない資源を利用して商品やサービスを生産し分配するために、人々や社会はどうやって選択をしていくのか」についての学問とのこと。そして、例えば「人材配分」についてなら、現在の(もしくは、過去の、または将来の)人材配分は「こうである」ことをテーマとする「実証経済学(positive economics)」と、人材配分が公正であるかを評価する、などといった「こうあるべき」という価値判断をもって踏み込む「規範的経済学(normative economics)」があるそうです。

 

このような経済学で開発されたツールや理論を使って保健・医療の問題を分析するのが医療経済学(health economics)で、続いて、医療経済学で主に扱う8つの分野について、例を挙げながら説明してもらいました。

1)何が健康に影響するのか。

2)健康にどのような価値があるのか、それをどうやって計量化するのか。

3)保健サービスの需要に何が影響するのか。

4)保健サービスの供給にはどのような特徴があるのか。

5)供給と需要の相互作用によりどのような結果となるのか。

6)健康の改善に際してのいくつかある選択肢で、経費と結果はどうなるのか。

7)保健セクターの資金調達方法と組織の在り方によって効果はどう変わるのか。

8)保健セクターの目標を最大限達成するためにどのような手段があるのか。

 

途中で出た質問に応じて、主な診療報酬制度についても話が及びました。日本での基本は出来高払い(fee-for-service)ですが、世界には人頭払い(capitation)や臨床疾患エピソードによる包括払い(case-based)などの制度もあり、それぞれの特徴の説明もありました。(事務局:日本の一部入院医療で適用されている「診断群別日額定額払い方式(Diagnosis Procedure Combination / Per-Diem Payment System)」は日本独自のしくみのようです。)

 

制度設計は、政策側から医療提供者に向けてのメッセージ、という印象深い発言に対して、参加者からは、「一般医療従事者は指示された制度にただ従うしかないのではないか。」という質問も出ましたが、「利用者や医療提供者はよりよい制度のために声を上げるべきで、その声を届けるのが研究の役割だと思う。」という力強いお返事でした。

 

ここまでで時間切れになってしまい、準備していただいていた最近の本田さん自身の研究紹介にまで行かなかったのですが、論文は以下にあります。(上の論文について、アクセスできない方は事務局にご連絡下さい。お預かりしていますので、本人限定でコピーをシェアします。)

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21555082

http://heapol.oxfordjournals.org/content/30/5/600.long

 

参加者の多くが、現場の保健・医療従事者かそのために勉強している学生で、「医療経済学」になじみがない人がほとんどでしたが、とても分かりやすく説明していただき、大好評でした。その後も食事会も本田さんを含めて9名の参加があり、勉強会の続きで盛り上がりました。

 

最後に筆者の私見ですが、保健・医療従事者や研究者がもっと経済学の専門家と協働できないか、そのためには、基礎知識はあった方がいいのではないか、と感じています。そのために、今回の勉強会を企画しましたが、そのような感想を寄せてくれた学生さんが何人かいて、企画の甲斐がありました。ぜひ来年もお願いしたいと思います。

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