活動報告

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【8/29勉強会報告】東ティモールにおけるNCDsの現状と課題  ― 感染症から慢性疾患へ。転換期にある国のいまを見つめる ―

8月29日の勉強会は東ティモールにおけるNCDs(非感染性疾患)の現状と課題について、吉森悠さんから話題を提供いただきました。吉森さんはNPO法人シェア=国際保健協力市民の会の現地代表をはじめ東ティモールで通算10年にわたり国際協力活動をされました。現在は帝京大学大学院で東ティモールの建設労働者を対象とした非感染性疾患(NCDs)に関する研究を行い、同時に、関係機関と予防策の検討に取り組んでいらっしゃいます。今回吉森さんは、現地調査を終えて帰国した直後に大阪・関西万博での東ティモールデイを支援し、その足で名古屋に来てくださいました。

 

 

東ティモールがインドネシアから主権を取り戻してから四半世紀近く経ちます。その間、東ティモール政府は国連や国際NGOの支援を得て様々な開発課題に取り組んできました。今では優秀な人材が育ってきて、調査や研究活動も活発になってきました。また、国際NGOが東ティモール人主導で活動するようになったほか、ローカルNGOも増えてきました。

 

保健分野については感染症と母子保健が主権回復当初から続く主要課題です。現在もなお、5歳未満の子どもの2人に1人が発育阻害(stunting)という状態です。それに加え、近年はNCDsの患者も増えてきていると推察されています。成人の死亡原因も脳梗塞・虚血性心疾患・慢性閉塞性肺疾患などが大幅に増加している* とのことです。(ただし、東ティモールにはこれらの疾患を正確に診断する手段が未だ乏しいため、推測の死因であると思われます。)東ティモール政府もNCDs対策に乗り出しました。

 

過体重(BMI≧25.0)と高血圧はNCDsのリスクファクターとして知られていますが、東ティモールでは2013年には10.2%だった成人の過体重率が、2020年では19.3%に上昇しました**。現在は更に上昇していると思われます。また、WHOは東ティモールの成人の40%近くが高血圧と推計しています。

 

吉森さんは今回の調査活動で、公共事業に従事する労働者の身長・体重・血圧測定と、NCDsに関する知識や意識について聴き取りをされました。調査結果の分析はこれから、とのことですが、高血圧者の割合が多いとのことで、WHOの推計を裏付ける結果となったようです。また、吉森さんは滞在中に気になったこととして、ドーナツなどの揚げ菓子やスナック菓子が気軽に買える環境や、喫煙者の多さ、子どもたちがタバコを売る様子などを紹介し、生活環境の中のNCDsリスクファクターと対策の必要性にも言及しました。

 

 

今回の参加者には東ティモールで活動されている団体のかたや、大洋州諸国でNCDsの研究をされているかたがいらっしゃいましたので、勉強会後半ではご自身の活動から中低所得国におけるNCDsの現状と課題について情報提供していただけました。東ティモールの小中学校で栄養指導をしているJICA海外協力隊員のかたからは、過体重の子どもが一定数いること、過体重の子どもの親も過体重の傾向があること、等の情報をシェアしていただきました。NCDsは今や先進国のみの課題でもなければ、成人のみを対象とするものではないこと、全世代を対象として生活環境を含めたアプローチが必要なことが、今回の勉強会で理解できました。話題提供してくださった吉森さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

 

* JICA国別分析データ2023より

**National Food and Nutrition Surveyより

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