活動報告

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2025.1.24てらこや報告「リハビリテーションに関する国際動向とデータサイエンス」

2025年最初の勉強会は、国立保健医療科学院の山口佳小里さんをお招きして、上記のテーマでお話しいただきました。山口さんは作業療法士で、臨床や養成教育の現場を経験した後に、現在の職場で医療・福祉サービス研究部(国際協力研究領域併任)の主任研究官としてお仕事をされています。

 

 

山口さんはまず、リハビリテーションに関するWHOの動向を紹介されました。

 

先進国・途上国を問わず人口が高齢化し慢性疾患を抱える人が増加する中、リハビリテーションは人々の機能を最適化することに貢献できる、21世紀における優先的な保健戦略として、UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)にも必須サービスとして明記されています。

 

WHOはRehabilitation 2030 initiativesを表明しています。WHOによると、リハビリテーションの恩恵を受けられる可能性のある人は24億人余りで1990年から63%増加しており、Rehabilitation 2030は、特に中低所得国において将来増加するとされているリハビリテーションのアンメットニーズに対応するため、必要な人々にサービス提供を充実させるためのヘルスシステム強化や人材開発に関する取り組みを実施するためのイニシアティブです。

 

参考URL (Rehabilitation 2030 initiative)

 

2023年のWHO総会(World Health Assembly: WHA)では、ヘルスシステムにおけるリハビリテーション強化に関するアジェンダが採択され、各国におけるリハビリテーション推進のためのさらなる取り組みが期待されるとのことでした。

 

 

Rehabilitation2030の柱の1つに情報システムがあげられます。データベースもこの1種であると考えられ、これを活用することで、政府が限られた物理的・経済的・人的資源をどう配分するかを検討するための根拠となり得ます。山口さんは国内において保健医療関係のデータベース関連の体制整備や活用推進にも取り組んでいます。活用例としていくつかご紹介されましたが、ここではそのうち2つ紹介します。

 

ひとつめは、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)のオープンデータから見るCOVID-19流行期間のリハビリテーションについてです。流行前と比較して、流行中において、外来でのリハビリテーションや、介護保険の通所リハビリテーションが減少していたとのことです。

 

 

 

ふたつめはLIFE(科学的介護情報システム)です。LIFEは介護サービス利用者の状態や、介護施設・事業所で行っているケアの計画・内容などを一定の様式で入力すると、インターネットを通じて厚生労働省に送信され、入力内容が分析されたのち、当該施設等にフィードバックされるシステムです。データ提出とフィードバックの活用によりPDCAサイクルの推進とケアの質の向上を図ることを目的としています。2021年に開始され、施設系サービスや通所系サービスで活用が進められています。山口さんからは、厚生労働省が示す科学的介護の将来像も紹介されました。

 

 

今回の勉強会で、政策策定におけるデータベースの重要性が理解できました。現場レベルでも、適切なケアができているかどうかの判断指標の一つとしてデータの活用が有益だと理解できました。

 

その一方で、正しくデータを集めることができるか、また、データ収集に関するコスト(金銭的・人的負担)も検討課題だと感じました。例えば日本の介護現場で、介護に加えてデータ入力の作業が増えることをどう考えるか、また、情報リテラシーの脆弱な国でデータを収集する、あるいは管理することの難しさなど、データの量と質をどのように担保するかが、それぞれの現場や国で問われることとなります。

 

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参加者からのコメント&質問を一部抜粋してご紹介します。

 

今回日本のデータ(LIFE)の話もあり、大変興味深い内容でした。
同様のことがビッグデータとして、DPC病院などの医療でも行われているのだと思います。私たちにはデータをどのように、だれが研究し、エビデンスを上げておられるのかはなかなか知り得ないものでした。

WHOなど世界各国の保健、医療データを読み解くときに、世界共通のもの(例えば、コロナでどのくらいの方にリハが必要、または有用であったかなど)と各自国にとって必要なもの(例えば日本では介護予防の効果的データや労災にあたる腰痛データなどが有用だが、少子高齢化でない諸国では交通事故における回復データや小児疾患などのデータが必要など)は異なる気がしました。
その辺りはどのように各諸国と話しをしていかれるのでしょうか?

 

上記のコメントと質問に対して、山口さんは以下のとおりお答えしました。

 

どのようなデータを活用するかについては、仰る通り、どのような立場の方がどのような目的で活用するかによって異なるかと思います。

各国の状況の比較や、国際協力で他国を支援する際などには、世界共通の比較可能なデータが有用だと思います。とはいえ、リハビリテーションに関しては、各国共通の指標・データが今のところなく、これから開発されていくかと思います。

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データの活用はこれからますます重要になってくると思われます。現場での個別事例から得た気づきと、自治体や政府の制度設計をつなぐのがデータベースです。これらの課題をどうクリアするかも注目していきたいですね。

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