【1/26てらこや報告】多様性が当たり前になる街づくり -Specialistとして、Generalistとして-
2024年最初の勉強会は作業療法士の菅沼映里さんをお招きして、菅沼さんが静岡県浜松市を拠点に実践している在留外国人の生活支援と就労支援の取り組みをご紹介いただきました。
菅沼さんの活動は多岐にわたりますが、その一つは、留学生の就労支援です。卒業後に日本での就職を希望する人も多いため、留学生の専門性を活かせる企業とのマッチングや、企業にウケる履歴書の書き方支援などを行っています。時には企業からの要望で、外国人が働きやすい職場環境についてのアドバイスもしています。もう一つは在留外国人全般の生活支援です。生活のよろず相談から、病院の受診相談や公的機関での各種手続きの支援まで、多岐にわたるニーズに直接対応したり、他団体につないだりしています。菅沼さんの活動の根底にあるのは、精神科領域の作業療法士として培ってきた知識と技術、そして超職種チーム(ACT)モデルとRecoveryという考え方です。米国の政府委員会によると、リカバリーとは、「人々が生活や仕事、学ぶこと、そして地域社会に参加できるようになる過程であり、ある人にとってはリカバリーとは障害があっても充実し生産的な生活を送ることができる能力であり、他の人にとっては症状の減少や緩和である」と定義されています。つまり、困難と思われる状況であっても、社会とのつながりを保ち、自分の人生の主人公になる&主導権を取り戻すプロセスと言えるでしょう。
その一方で、菅沼さんは在留外国人のエンパワメントだけでなく、在留外国人のメインストリーミングを目指して、一般市民への啓発活動も行っています。彼女のユニークなところは、その方法。ご自身の活動を飲食業=カレー屋さんとして発信しているのです。専門職(作業療法士)として発信するよりも、一個人(カレー屋さん)として発信したほうが、多くの人の目に留まりやすいから、とのこと。Think as a specialist, act as a generalist、勉強会タイトルの「カレー屋の皮をかぶった作業療法士」の意味はこれだったのですねw
菅沼さんが目指しているのは、「外国人がいる街の風景を当たり前にする」(=いろんな背景を持つ人を受け入れやすい風土づくり)です。そのためには間口を広くしてご自身の専門性を惜しみなく活かす、そんな菅沼さんの熱い思いが伝わったのか、プレゼン後のディスカッションも盛り上がりました。
さて、私たちができることは何でしょうか?
菅沼さんの提案の一つに「第三者返答を避けること」がありました。
「第三者返答」とは、「話しかけてきた人の見かけの印象などから、その人との意思疎通が問題ないにも関わらず、無視して、その人と一緒にいる人に返答すること」を意味します。たとえば、レストランで日本語堪能な外国人が日本語で注文しているのに、店員が戸惑ってその外国人を無視し、一緒にいる日本人に返答するというような場面をいいます。(オストハイダ・テーヤ(2005)「社会言語科学」第7巻 第2号)
第三者返答についてのショートムービーもあります。ぜひ見てください。
このような場面は外国人だけでなく車いす利用者など障害のある人も同様な体験をすると指摘されています。一般の人だけでなく、医療や福祉に携わる人も気を付けなければならない事柄ですが、人権に関する教育とともに、小さいころから繰り返し教育する必要があると思いました。
参加した方々からは多くのコメントをいただきましたが、そのひとつをご紹介します。
日本の対外国人政策が労働者視点であったことが大きな問題であることが、ここ数年で子どもたちの不就学などから、生活者としての外国人視点にようやくなりつつあります。でも、多くの日本人は外国人はよその人という接し方をしてしまっています。菅沼さんが話されていた「浜松市の2021年の調査によると、外国人市民と『親しく付き合っている』と答えた日本人市民が 2.6%しかいない」と嘆いていた日本人の感覚をどうしたら変えることができるのか。それは対外国人だけではなく、対障害者についても言えることだということを改めて感じました。
以下、菅沼さんのコメントです。
「そのとおりですよね。ただ労働者、税金を払ってほしいということだけでなく、日本で長く暮らすこと、快適に暮らすこと、人生をいきいき暮らすことを含めて総合的に考える必要がありますね。そして、それは対障害者に通じているというのも同感です。時間の関係で端折りましたが、日本が世界で最も精神科病床が多いことから脱却するのに、何をすればよいのか、私は外国人を支援することから学ばせていただいていると思っています。」
BiPH勉強会も引き続きこのテーマを取り上げていきたいと思います。菅沼さん、ご参加くださった皆さん、ありがとうございました!