【7/14勉強会報告】世界の母子保健の現状は・・・?
7月14日の勉強会では、日本福祉大学看護学部で教鞭をとられている高井久実子さんをお招きしました。
まずは高井さんのプロフィールをご紹介します。現在はBiPHの東ティモール事業もお手伝いいただいています。
高井さんは日本での臨床勤務ののちアジア・アフリカ諸国の緊急医療救援の現場で活動されました。この日は高井さんの専門である世界の母子保健の現状を、ウガンダやタンザニアでの活動の様子も交えてお話しいただきました。
高井さんによると、国際保健活動における助産師の役割は、あらゆる場所や状況において、女性と子どもの“いのちと健康”を守ること、とのことです。SDGsの3「すべての人に健康と福祉を」にも、赤ちゃんと子どもの死亡率を下げることが数値目標と共に具体的に書かれています。特にサブサハラ諸国での妊産婦死亡率や乳幼児死亡率は高く、この状況を改善することが喫緊の課題と言えます。
国際保健=開発途上国での保健活動というイメージですが、被災地や紛争地や難民キャンプなどで女性や子どもの健康を守ることも重要です。余談ですが、高井さんのお話をお聞きして、筆者が東日本大震災後に福島の避難所を訪れた時に、発災翌日に出産された女性と赤ちゃんに会ったことを思い出しました。出産や子育ては時と場所を選ばないことを実感し、生まれたばかりの赤ちゃんを懸命に守ろうとするお母さんと、そんなお母さんを支える他の被災者やボランティアの方々の様子に言葉を失くしたことを、今でも覚えています。高井さんも石巻で活動されたとのことですが、どのような思いで活動されていたのでしょう・・・。
一般的に、適切な時期に適切な治療を受けることができない場合、その原因として、以下の「三つの遅れ(The Three Delay Model)」があると言われています。母子保健も例外ではありません。
1.治療を受けることを判断するまでの遅れ
2.緊急ケアを受けられる病院・診療所を見つけて、そこに到着するまでの遅れ
3.適切かつ十分な治療を受けられるまでの遅れ
高井さんによると、これらはインフラや医療施設の未整備等の問題だけでなく、安全な妊娠出産に関する意識や知識の少なさや、女性の体を守ることについてのジェンダー格差なども影響しているとのことです。その一例として、若年妊娠や危険な中絶、女性器切除の風習、月経に伴う社会参加機会の減少などの現状と、それらへの取り組みが、現場ならではの写真とともに紹介されました。
バックグラウンドが多様な参加者の当勉強会らしく、今回も看護学生さんや非医療系の方から国際保健関係の研究者まで幅広くご参加いただきました。そのためか参加者からは「母子健康についての知識がなかったけれど、分かりやすい説明で理解することができた。アフリカで昔ながらの伝統的な考え方、設備が先進国に比べて不十分であることなどを知って母子保健の必要性を実感した。」などの声や、「もう少し、現在のトピックスに焦点を当てても良かったのでは。たとえばFGMの現在、妊婦健診の質と回数、など。」などの感想をいただきました。また、高井さんへの質問もありました。以下、質問と高井さんからの回答です。
質問1: 家族計画について、活動された地域ではどのようにかかわっておられましたか?
高井さん:ご紹介したウガンダの母子保健プロジェクト、タンザニアの難民キャンプでは、私自身は直接的な家族計画に関わる機会はほとんどありませんでした。ウガンダでのヘルスセンターでは看護師または助産師、タンザニアの難民キャンプのMCH部門では看護師または難民のボランティア(難民の中からある一定のトレーニングを受けたスタッフ)が家族計画を希望する人への対応を行っており、そのサポートをしていました。長期間の効果が期待できるインプラントやホルモン注射を希望する人が多かったと思います。また、HIV感染予防も兼ねてタンザニアの難民キャンプではコンドームが無料配布されていました。
質問2: 仮死で生まれた子ども達はその後の発育についてfollow upしてもらっているのでしょうか?障害を残している子どもとその両親・家族への支援は?
高井さん:その後の発育についてのfollow up体制について、私の知る限りでは特別な対応はされていなかったと思います。必要時受診をしたり、通常のgrowth-monitoringはされていました。障害を残した児や家族への支援は本当に必要だと思いますが、そこまで手が回っていないような現状でした。
勉強会の最後に、高井さんは「女性と子どもが健康で、はじめてその地域、国、世界の未来がつくられていきます」というメッセージを伝えてくださいました。高井さんのメッセージを胸に刻んで活動していきたいと思います。高井さん、ご参加くださった皆さん、ありがとうございました!