「尊厳ある生のために」1/28勉強会報告
1月28日の勉強会は中日新聞編集委員の安藤明夫さんをお招きしました。
安藤さんは新聞記者として、長年にわたり医療に関することや病気や障害ととともに生活する方を取材されています。今回は安藤さんが取材を通して出会ったお二人 -荒井里奈さんと押富俊恵さん- のエピソードを通して、「限られた命の時間を自分らしく生きる」ことについてお話しいただきました。
まずは簡単に荒井さんと押富さんのご紹介をします。詳細は安藤さんの記事をお読みください。(以下のサイトでお読みいただけます)
荒井里奈さんは舌下腺の腺様嚢胞(のうほう)がんによる舌の切除、構音障害や摂食困難を乗り越え職場復帰した後のがん転移など、多くの苦難を笑顔でうけとめ、生活を楽しみ、47年の生涯を生ききりました。
【連載 舌はないけど】自身を生き切った、荒井里奈さん(中日新聞Web)
https://www.chunichi.co.jp/article/410439?rct=shitahanaikedo
押富俊恵さんは重症筋無力症を発症後、人工呼吸器を着け、電動車いすで生活しながら、障害のある人を支援するNPO法人を設立し、作業療法士として39年の人生を全うしました。
「どう生きる どう支える 人工呼吸器で11年 故・押富俊恵さんが問いかけたもの」(中日新聞Web)
https://www.chunichi.co.jp/article/260031
「押富さんが挑んだバリアー」(中日新聞Web)
https://www.chunichi.co.jp/article/328644
勉強会の参加者に向けて、安藤さんは、お二人が語った言葉やお二人とのエピソードなどを、写真とともにご紹介くださいました。
安藤さんが感じた、荒井さんと押富さんの共通点は、
・毎日の生活を楽しんだこと。自分がやりたいことを、笑顔で楽しむ。自分が楽しんでいることが、ご家族や周囲の人に思い出として残ることを願っていたのかもしれません。
・言語障害がありながらも、あらゆる手段を駆使してメッセージを発信したこと。お二人は自分たちの経験が他の誰かの役に立つことを理解し、新聞紙面や講演会などで積極的に発信していました。また、お二人とも言語障害がありましたが、講演会では字幕を用意したり、真剣に聴こうとする聴衆を時には和ませたりしました。
・医療者や介助者との関係づくりに気を配ったこと。医療や福祉の「お世話になる」のではなく、自分がやりたいことを実現するために医療や福祉を「活用する」ことを意識し、それを医療者や介助者に理解してもらうよう努めていました。
ちなみに、荒井さんと押富さんは交流がありました。これも安藤さんがつないだご縁でしょうか。
舌はないけど(59)「意思決定の尊重」一緒に考えることから
https://www.chunichi.co.jp/article/128819
勉強会では記者人生の転機となったのが阪神淡路大震災とご家族のことだ、とも話されていました。安藤さんが書く記事は温かく、当事者に寄り添っている感じがしていましたが、その原点に少し触れた思いです。
参加者の多くは医師・看護師・作業療法士・言語聴覚士など現場で働く医療従事者、福祉関係の支援者で、中には生前の押富さんと親交のある方もいらっしゃいました。
寄せられた質問や感想のうち、ふたつご紹介します。
・自分をゆさぶる存在がいることは大切だ(「障害があるのにすごい、感動した、がんばってる、自分も学ばなきゃ」ということではではなく、自分自身のありようや考え方を「揺さぶる」ような、もの。だからしんどく、時々逃げたくなるわけですが)と思いました。多文化共生・インクルーシブ社会というときも、ただ仲良く暮らす、理解し合う、というだけではなく、そうした「ゆさぶり」をお互いに起こし合える、しんどいけれどもそれを楽しむ関係づくりなのではないかと思います。押富さんが「ごちゃまぜ」で目指した地域づくりも、そういう場づくりなのかなと、思ったりしました。
・おふたりが前向きに生きられたこと、それは素晴らしい話だけれど、もし彼らを理想のように紹介すると、励まされる人もいる一方、こんな風にアクティブに行動できない人はプレッシャー(~劣等感?)を感じるかも・・・と思いました。
2番目の感想に対し、安藤さんはこのようにコメントされました。
「アクティブな患者さんや被災者の方、障害児の親の方たちを紙面で紹介していくうえで『自分はそんなふうにできない』という思いを抱く方がいらっしゃることは事実です。そうした反応も含めて、当事者のロールモデルを紹介していくことが大事かなと思っています。」
安藤さんが当事者のロールモデルを紹介する意図は、こうでしょうか。
・病気や障害のある人には、「こんな生き方もできるんだ」ということを、そのための手段も併せて知ってもらう。
・支援者には、自分たちのかかわり方で病気や障害のある人の生活が豊かになることを知ってもらい、病気や体の一部分のみを見るのではなく、病気や障害を含めてその人の生活に思いを寄せ、やりたいことを実現する手伝いをしてほしい。
勉強会の最後に安藤さんは「記者生活の終盤で、この二人と出会えた幸せを感じます。そして新聞以外の形でも二人のことを伝えていきたいです。」とおっしゃいました。既に数々の場で講演をされており、今後もお二人のことを伝えていきたい、とのことでした。荒井さんと押富さんの思いは、安藤さんはじめ多くの方の手で今後も受け継がれていくことでしょう。安藤さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。